「託送料金」の値上げや値下げなどの改定は、私たちの電気代が高くなったり安くなったりと影響を受ける事をご存知ですか。電気の「託送料金」とは何なのか。電気が一般家庭までに届く仕組みを知ると理解することができます。その上で電気を使う私たちがそれぞれ持続可能な社会について考えてみましょう。
託送料金とは?
2016年の電力小売全面自由化によって、一般家庭でも契約する電力会社を自由に選べるようになっています。これまで大手の電力会社が電気の供給に関して発電部門・送電部門・小売部門を一挙に担い私たちの家庭に電力供給を行っていましたが、先に発電部門が自由化となり、続いて小売門が自由化になりました。発電された電気は送配電線を通って私たちの家庭に届きます。電気を販売する小売部門は自由化によって市場が開かれ多くの新電力会社が電力販売に参入していますが、電気を届ける送電部門はこれまでと変わらず大手の電力会社(一般送配電事業者)が管理します。そのため、電気を販売する小売電気事業者は一般送配電事業者に送配電網の利用料を支払うことになっています。これが「託送料金」です。
小売電力事業者が一般送配電事業者に支払う託送料金は、私たちの電気代に反映されています。毎月支払っている電気代には、送電線の利用料も含まれているため、託送料金の値上げや値下げなどの改定の際には、電気代も高くなったり安くなったりと影響を受けるのです。2020年7月に託送料金の改定があり、2020年10月から適用される予定でしたが、現在、新型コロナウイルス感染症の影響などもあり、大きく電気代の値上げという形で反映されていません。しかし、現在の状況を考えると託送料金の値下げは考えにくく、改定された託送料金の反映は、電気代の値上げという形で反映されるのではないかと考えられます。
託送料金と原子力発電所
託送料金には、一般送配電事業者の人件費や設備修繕費、減価償却費、固定資産税のほか、電源開発促進税、賠償負担金、廃炉円滑負担金などが含まれています。この中で「賠償負担金」と「廃炉円滑負担金」に注目してみましょう。託送料金に含まれる賠償負担金とは、何の賠償金で廃炉円滑負担金とはどのような負担金なのでしょうか。誰もが毎日使う電気ですから、電気代を支払っている私たちが負担している費用について知っておきましょう。
東日本大震災と原子力発電所
東日本大震災による福島の原子力発電所の事故は、電力会社が多額の賠償負担金を負担することになりました。この事故をきっかけに原発に対する不信感や不安感が強まる事となり、21基の原発の廃炉が決定しています。東日本大震災前には54基の原発がありましたが、現在地元の同意を得て稼働しているのは5発電所の9基のみです。(2021年3月時点)この、東日本大震災による福島の原子力発電所の事故による賠償負担金や原子力発電所の廃炉に必要な費用(廃炉円滑化負担金)は大手電力会社が負担することになっています。
大手電力会社では、2020年4月に送配電分離による分社化が行われていますが、電気は従来の一般送配電事業者(大手電力会社)が管理する送配電網を利用して送られてきます。それは、これまでと変わらない電気を安心して利用できるという事でもあります。しかし、私たちは変わらず、従来の送配電線を利用して電気の需給を受けるということから、大手電力会社が負担する福島の原発事故による「賠償負担金」や世論の影響や再稼働の基準を満たせず廃炉となる原子力発電所の「廃炉円滑化負担金」を送配電部門を管理している大手電力会社が小売事業者(小売部門を行う大手電力会社と新電力会社)に託送料金として請求することで電気を使う人が負担するという仕組みになっているのです。
賠償負担金
賠償負担金は、福島第一原子力発電所の事故以前から原子力損害の賠償のために備えておくべきであった費用として40年程度の年月をかけて私たち需給家が支払っていくことになっています。
■電気使用量(kWh)× 賠償負担金相当額(円/kWh)= 賠償負担金
廃炉円滑化負担金
廃炉円滑化負担金は、原子力発電への依存度を低減させていくという国のエネルギー政策に係る基本方針のもとに原子力発電所の廃炉を円滑に進めていくための資金として需給家が支払っていくことになっています。
■電気使用量(kWh)× 廃炉円滑化負担金相当額(円/kWh)= 廃炉円滑化負担金
「不足分」の回収と電気代への影響
確保すべきであった「不足分」賠償額とは?
東日本大震災で起こった福島の原子力発電所事故により、東京電力に多額の賠償金の支払があることは多くの人が理解しているところでしょう。事故が起きる以前には、このような事故が起きるかもしれないという事を想定した賠償金の備えは行われていませんでした。しかしながら実際に事故は起こってしまい、まだ解決には至っていません。
このような状況を受けて、資源エネルギー庁は、「事故前に確保すべきであった不足分を託送料金の仕組みを利用して需給家から回収する」ものだと説明しています。広く需給家全体の負担として今後40年間にわたる長期の回収計画としているようです。
2020年、2021年の現在も続く新型コロナウイルス感染症の脅威で他のことに注目する視野が狭くなっている状況にあるかもしれません。しかし、私たちの生活に直結する電気も大きな変化があったことはとても大きな出来事です。
下記は、大手の電力会社の負担額です。これらの金額が今後、託送料金としてこれから私たちの電気代に反映されていくようです。
賠償負担金の額
電力会社 | 賠償負担金の額 |
---|---|
北海道電力ネットワーク株式会社 | 500億円 |
東北電力ネットワーク株式会社 | 1,425億円 |
東京電力パワーグリッド株式会社 | 9,221億円 |
中部電力パワーグリッド株式会社 | 2,400億円 |
北陸電力送配電株式会社 | 483億円 |
関西電力送配電株式会社 | 6,257億円 |
中国電力ネットワーク株式会社 | 730億円 |
四国電力送配電株式会社 | 945億円 |
九州電力送配電株式会社 | 2,438億円 |
廃炉円滑化負担金の額
電力会社 | 廃炉円滑化負担金の額 |
---|---|
東北電力ネットワーク株式会社 | 615億円 |
東京電力パワーグリッド株式会社 | 1,646億円 |
中部電力パワーグリッド株式会社 | 69億円 |
北陸電力送配電株式会社 | 7億円 |
関西電力送配電株式会社 | 1,141億円 |
中国電力ネットワーク株式会社 | 91億円 |
四国電力送配電株式会社 | 573億円 |
九州電力送配電株式会社 | 598億円 |
電力業界の仕組みを知って電力会社を選ぶ
電気代の値上げや値下げには必ず理由があります。特に、電力業界はエネルギーを輸入に頼っていることも多く輸入による原油などの相場変動を燃料費調整額として電気代に反映され支払っています。燃料費調整額は一部の電気プランを除いてどこの電力会社と契約しても徴収となりますが、一般的に3か月に1度の平均で計算され徴収されているので、その変化を確認しているだけで燃油事情に関心が深まっておもしろいかもしれません。
また、電力会社の電源構成に注目してみることもよいでしょう。東日本大震災以降、再生可能エネルギーの普及も急速に伸びました。近頃では、再生可能エネルギーだけで構成された電気プランを販売する電力会社も増えています。
託送料金や再生可能エネルギー発電促進賦課金などは、法律で決まっており、電気の使用量1kWhあたり〇〇円と徴収されるものなので、逃れる事ができません。現在の日本の状況を考えても劇的に電気代が安くなるという事は難しいいでしょう。
「電気代はとにかく安くしたい」という人は、電気代の値上げは受け入れ辛いものです。電力自由化以前であれば、電力会社の事情がそのまま電気代に反映され受け入れるしかありませんでした。しかし、電力会社を選べるようになってからは、今よりも安い電気料金で提供する電力会社に変更することができます。電力自由化は、電力市場を活性化させ競争させることです。市場が活性化すれば市場原理により電気代は適正な価格で自分に合った安い電力会社を探すことができます。
これからもさまざまな要因で電気代の値上げや値下げのニュースがあるでしょう。電気代の値上げは家計に影響する出来事ですが、電力会社は自分で選べます。電気代が少しでも安くなる電力会社を探したり、ポイントが貯まるような付加価値特典の多い電力会社に変更したりすることが可能です。環境に関心が深い人は、再生可能エネルギーを提供するプランを選ぶことも自由です。電気は私たちの生活に欠かせないものなので値上がりしたからといって電気を使わないという選択肢を選ぶことは難しいです。ですから、自分の生活にあった電気プランを捜しましょう。電力業界や電気代の仕組みを知ることで自分にあった電気プランも見つけやすくなるでしょう。
この記事のまとめ
電気は、送配電線を通って私たちの家庭に送られてきます。電力自由化によってどこの電力会社から電気を買うかということは自由に選択できるようになっていますが、電気を届ける送配電線は従来の一般送配電事業者が管理する電線を通って送られてきます。それは、これまでと変わらない品質で安定した電力の供給を受けられるという事でもありますが、使用料の支払は必要になります。
- 託送料金とは、一般送配電事業者が管理する送電線の使用料である
- 託送料金には、福島第一原子力発電所の事故による「賠償負担金」と「廃炉円滑化負担金」が含まれる
- 現在、託送料金の改定は大きく電気代に反映されていないが今後電気代は高くなっていくと考えられる
電気料金の値上げのニュースがあると日々の電気代の節約を考える方も多いでしょう。節約は大切なことですが、今と変わらぬ 電気の使い方で電気代を安く抑える方法に電力会社や電気プランを変更するという方法もあります。電力会社による電気料金の変更に対応するには、一括比較サイトなどを利用し電気代が値上げしても今よりも安くなったり今と変わらず使える電力会社を探し電力会社を変更するとよいでしょう。