2016年にスタートした電力小売全面自由化により、小売電気事業者として登録をする事業者が増えています。そのなかでも、地方自治体が出資している新電力に注目が集まっていることはご存じでしょうか。この記事では、地方自治体による新電力とはどのようなものであり、またどのようなメリットがあるのかについて、事例も踏まえて紹介します。
目次
地方自治体による新電力とは
地方自治体新電力とは、一般的に地方自治体が出資している小売電気事業者のことを言い、地方自治体と民間企業が共同出資しているケースが多くみられます。地方自治体と民間企業の出資比率はさまざまで、どちらが多く出資しているかにかかわらず、地方自治体が出資に関与していれば地方自治体新電力(自治体新電力)と呼ばれています。その地域で発電した電力を活用して、主に地方の公共施設や民間企業、一般家庭に電力を供給する仕組みです。電力を供給するエリアは限られており、そのエリアのなかに本社が置かれているという特徴があります。一般家庭には電力を供給せず、公共施設にだけ電力を供給している地方自治体新電力もあります。
地方自治体新電力のメリット
地方自治体新電力が増えている背景には、どのような理由があるのでしょうか。地方自治体新電力のメリットについて紹介します。
再生可能エネルギーを地産地消できる
地方自治体新電力では、地域の風土を生かした再生可能エネルギーを利用した発電が増えてきています。日照時間の長い地域であれば太陽光発電、ダムのある地域であれば水力発電、風の強い地域であれば風力発電、森林の多い地域であればバイオマス発電など、それぞれの地域に合った発電方法を選択しているのです。地域で生み出された再生可能エネルギーによる電力を地域で活用することは、環境に配慮した取り組みとして評価されています。
地域経済が活性化する
これまで電力市場で大きなシェアを占めていた大手電力会社のほとんどは、本社が大都市にありました。つまり、電気代という売り上げが地方から大都市に流れていたのです。しかし、地方自治体新電力の小売業者は本社が地方にあるため、支払われる電気代は地方の収益となります。地方自治体新電力を設立することで、これまで大都市に流れていた電気代という売り上げを、地方が確保できるようになっているのです。
電気代は、一般的な家庭で年間約10万円以上といわれており、公共施設や地域の民間企業が消費する電力も含めると、かなり大きな額になります。電力の地産地消をすることは、地域経済の活性化につながるのです。設立当初は、コストの面などから、電力が使われる時間帯が限られる公共施設への電力供給から始めるところが多いようです。続いて一般家庭への電力供給ができるようになると、地域経済の活性化により大きく貢献できるようになるでしょう。
新たな雇用のニーズが増える
地方自治体新電力を設立すると、新電力会社のために働く人員が必要になります。電力を安定的に供給するためには、発電所のメンテナンスや事務を行う人員などが必要になります。今、地方では、仕事を求めて労働人口が大都市へ流出してしまうことが問題となっています。住み慣れた土地で暮らしたいと考える高齢者も、介護をしてくれる若い人がいなかったり、地域の財政難で十分な福祉サービスが受けられなかったりして、住み慣れた土地を離れなければならないケースがあります。しかし、地方に新たな雇用のニーズが生まれれば地域で働く若い人が増え、家庭を持つケースも増えるでしょう。地方自治体新電力の設立によって、地方の人口減少や財政難に歯止めがかかることが期待されているのです。
地方自治体新電力にデメリットはある?
地方自治体新電力は、地域で発電した電力を供給することで地域を活性化させることが大きな目的となっています。しかし、地域で発電できる電気は再生可能エネルギーの割合が大きいなど不安定な部分もあり需要と供給のバランスを保つために供給に足りない電力の多くは日本卸電力取引所(JEPX)から購入しています。日本卸電力取引所から購入した電気は、需要家の電気代に反映されるため、日本卸電力取引所から電力を購入する割合の多い電力会社は電気代が高くなってしまう傾向があります。今、地域の電力会社も注目を集め需要家が拡大していることにより供給する地産電源の割合が減少傾向にあることも課題となっています。
自分の住む地域の活性化への貢献や自分の住む地域で発電した電力を使いたいといった風土愛で地域を支えていく動きは加速していますが、電気代が高くなってしまうという課題も残っています。そういったデメリットがあることも理解し電力会社選びの参考にしてみましょう。
地方自治体新電力の例を見てみよう!
地方自治体新電力にはどのようなものがあるのでしょうか。1つ目の事例は、埼玉県秩父市の「秩父新電力」です。秩父新電力は、廃棄物発電から電力を調達しており、地域内の再生可能エネルギーをうまく活用している事例となっています。今後は、地域内にある太陽光発電所などの再生エネルギー発電所から生まれる電力を地域外へ売ってしまっているという状況を改善し、地域で生み出した電力は地域内で循環させる、地産地消の実現を課題としています。
2つ目は、山形県の「やまがた新電力」です。やまがた新電力は、再生可能エネルギーによる発電が8割と高い割合を占めています。東日本大震災により県内に大規模な停電が起きたことを教訓に、安心で安全なエネルギー源を導入したいと考え、バイオマス発電所や太陽光発電所を確保しました。夜間や土日祝日にも電力を供給しなければならないとなると、新電力を運営する側に負担がかかります。やまがた新電力では、平日の日中にしか稼働していない学校や市役所などの公共施設を供給先として確保することによって、初年度から営業黒字となっているようです。
この記事のまとめ
地域の活性化という視点から電力会社を選べる時代に!地方自治体新電力は、地方自治体と新電力会社が共同出資により地方の活性化に貢献している面が多くあります。
- 自治体新電力は、風土を生かした再生可能エネルギー発電電力が多い
- 電気代が地方に支払われることで地方経済の活性化につながる
- 地域で電力事業を運営することで雇用促進となる
電力小売完全自由化にともない、多くの地方自治体が新電力に出資しています。電気代をいかに安くするかという観点だけでなく、環境保護や地域経済の活性化という観点からも電力会社を選べるようになっていることにも注目したいところです。地方自治体新電力のメリットやデメリットを知ったうえで、どの電力会社にするかじっくりと考えてみてはいかがでしょうか。
現在、電力会社は自由に選択できるようになっています。地域に密着した電力会社だけではなく、自分の住むエリアで供給されている電気プランで自分のライフスタイルにあったプランに出会えれば今より電気を安く利用することが出来るかもしれません。どのような電力会社があるかは、一括比較サイトなどを利用してみることで確認することができます。同時に電気代の比較も行う事が出来るので、電力会社選びの参考にしてみてはいかがでしょうか。