2016年4月より日本でも一般家庭の方が電力会社を選べるようになりましたが、外国ではどのような状況になっているのか気になるところです。そこで、ここではドイツの電力自由化の歴史や現状を紹介します。
ドイツにおける電力自由化の歴史
ドイツの電力供給システムは、他国に比べてやや特殊です。というのも、19世紀後半においてもイギリスのように国有の電力会社が存在せず、シュタットベルケと呼ばれる地方電力会社が電気を供給してきた歴史があるからです。シュタットベルケとは電気・水道・ガス・交通など公共インフラを運営する自治体所有の公益会社のことを指します。直訳すると「町の事業」といった言葉で、地域ごと、そして時代に合わせたニーズを汲み取ってきました。
その後、1998年にドイツは電力が全面自由化されます。イタリアやフランスが2007年、日本が2016年ということに比べると、かなり早い時期に電力の自由化が行われたことになります。すでにイギリスでは1990年に電力自由化に関する法律が施行されていましたが、こうした流れを受けて、コール政権化においてEU指令を受ける形で電力自由化に踏み切ったのです。
電力自由化が施行されると、1000社以上のシュタットベルケ、既に存在していた大手電力会社8社、新規参入してきた100社以上もの企業がサービスを競い合う状況となりました。しかしその後は統廃合が進み、大手電力会社8社は4社にまとまり、一時は電力自由化前よりも高いシェアを占めました。現在は、脱原発や再生可能エネルギーへの支持の高まりなどから大手電力会社のシェアは減少傾向です。
ドイツにおける電力自由化の普及率
電力の全面自由化は、当時4.5兆円もの市場開放だったといわれています。これほどのインパクトを市場に与えたからには、ドイツ国民の生活に大きな影響を与えたことが予想されます。実際のところ、どれぐらいの消費者が電力会社を変更したのでしょうか。
ドイツでは、約29%の家庭が電力会社の変更を行っています。この数値は、変更率の高いイギリスに比べると低いですが、旧国営電力会社のシェアが依然として大きいフランスやイタリアに比べると普及率は高めといえるでしょう。たとえば、2010年をみてみると、電力会社を変えた家庭はドイツで約6%、イギリスで約17%、フランスで約2.3%、イタリアで約4.1%となっています。
ドイツにおける電力自由化による電気料金への影響
イギリスのサッチャー政権で始められた電力自由化の目的の1つは、市場に競争原理を働かせることにより、電気料金を引き下げるということでした。ドイツの電力自由化においても、この効果は出ています。既存の電力会社が顧客離れが進んだことによる電気料金を値下げを行ったことなどにより、価格競争が激化したため電気料金が下がったからです。
また、電力自由化当初は電力会社同士の交渉に任せていたため、他国に比べて料金が下がらないことが指摘されていましたが、2005年より国の承認制度を採用することである程度状況が改善されたといわれています。しかし、2000年以降は料金が値上がりしてきています。なぜなら、再生エネルギー買取コストの増大、CO2排出権利取引の開始、環境税の引き上げなどにより料金水準を引き上げざるを得なくなっているからです。また、政治的な問題などがあり、燃料価格の変動が激しいことも料金が上がる一因となっています。
欧州のなかでも、ドイツの電気料金は最も高い水準です。これには「再生エネルギー大国」というイバラの道を進んでいることも関係しており、原発大国フランスに比べると平均2倍以上の電気料金をドイツ国民は支払っています。
ドイツにおける電力自由化の特徴
ドイツにおける電力自由化の特徴は多様性です。ドイツには、自由化以前からシュタットベルケと呼ばれる地域ごとの電力会社がありました。つまり、初めの段階から、地域密着型の多種多様な電力会社が存在していたことになります。これに主要3社であるRWE、ENBW、E.ONの他、1100もの電力会社が設立されたため、企業数がとても多く、開始当初は競争が非常に盛んになりました。
現在は4大電力会社のシェアが大きいもののこの状況は続いており、ドイツでは全て合わせると1万以上の料金プランが存在するといわれています。再生エネルギーの推進による事業者の増大や、脱原発による電力会社の再編などの影響もあり、4大電力会社のシェアが下がる傾向にあります。
ドイツの電力市場は複雑!?
ドイツの電力自由化は非常に複雑な状況です。数えきれないほどの電力会社があり、1万以上の料金プランが存在しているため、消費者は最適な料金プランがどれかわからない状況に陥ってしまっています。
日本においては、電力会社の比較サイトなどがあり、ある程度参考にすることもできます。ドイツにも同様に比較サイトは存在しますが、電力会社だけでなく比較サイトの数も多く、また中立的でないサイトも数多くあります。上手に選べば自分にぴったりの電力会社を見つけられるかもしれませんが、ドイツでは企業数の多さと料金プランの多さから電力市場が複雑すぎる状況となっています。