2016年4月から一般家庭も電力会社を選べるようになり、段階的に自由化となっていた電力販売は全面自由化となっています。これにより、2020年4月からは電力会社の中で送配電を担う事業部門が分離されて別会社となります。しかし、なぜ分社化を行うのか、どんなメリットがあり、私たちの暮らしには影響があるのか、よく分からないと感じる人も少なくありません。電力自由化にともなう発送電分離の背景や、メリット・デメリットなどについて知っておきましょう。
目次
電力自由化による発送電分離とは?
そもそも電力自由化には、発電の自由化・電力小売の自由化・送配電の分社化という3種類の取り組みが含まれています。このうち、私たちに身近な2016年4月より本格的にスタートしたのは、一般家庭向けである低圧の電力小売の自由化です。従来は、一般家庭が契約できるのは住んでいる地域の電力会社に限定されていましたが、自由化以降はどこの電力会社とも自由に契約できるようになったわけです。ただし、この時点では送配電の分社化は見送られました。送配電の分社化は、2020年4月にスタートしています。発電・電力小売・送配電の3分野の中で、なぜ送配電だけ遅れてスタートすることになったのでしょうか。
過去には、東京電力や関西電力といった地域ごとの大手電力会社が発電・送配電・小売の全てを一貫して行っており、地域独占の状態だったとはいえ、国内の隅々まで安定的に電力を共有するという面に寄与していました。しかし、世界的な規制緩和の背景を受け、1995年以降、数回に渡る制度改革を行い、市場の活性化と効率化を目的として発電・小売部門は既に自由化となっています。健全な競争が行われるように2020年4月にスタートした発送電部門分離により、送配電の中立性を確保でき、新電力など新規参入企業を含むどの企業も公平に利用できるようになります。それによって、より健全な市場で発電した電気を電柱や電線などの送配電網を利用して流すために送配電の分離は必要な改革であると言えます。
しかし、送配電を行う事業部門が電力会社から分離されることが決まっても、これまで1つの会社が行っていた事業を分離することになるので、会社にとっては長期の準備期間が必要です。それぞれの電力会社では、資産の仕分けや新たな資金調達、労使関係の課題など、分離するために行わなければならない作業は山積しています。混乱なく分離を実施するためにも、送配電の分社化は遅れて行われることになったのです。
大手電力会社が行う送配電の分社化
大手電力会社では、2020年より発電部門と送配電部門を分離することになります。ここでは、分離を実施する方法やメリット・デメリットについて説明します。
発送電分離に至った理由
日本では、2003年に制度が改正されてから「会計分離」が行われてきました。会計分離とは、発電や小売など他の部門の会計と送配電部門の会計を分離させる施策のことです。会計分離と同時に、目的外での情報利用や差別的な取扱を禁止し、送配電業務を支援する機関を設けるなど、公平性や透明性を実現する取り組みも行われています。しかし、この会計分離だけでは送配電部門の中立性は十分に確保できないという指摘もありました。そこで、多方面からの検討が行われ、2020年より「法的分離」の実施が決まったのです。
【法的分離とは...】
東京電力や関西電力のような大手電力会社がこれまで行ってきた送配電部門の事業を別の会社に分離することです。送電網を法的に分社化することで、送電網ネットワークを公平に利用できるようになります。これは、電気事業法の改正により、発電・小売・送配電部門が同一会社業務を受ける事を禁止されたことによる改革となります。
メリットは電力ビジネスの拡大!
法的分離にともなう送配電部門の分社化で得られるメリットは、電力ビジネスが拡大することです。まず、分社化によって、既存の電力会社が所有していた配送電部門の独立性が増します。これにより、送配電業務を担う会社がライバル電力会社のみに対して高い手数料を課すことや、送配電網を使用させないという不公平な事態を回避できるので、既存の電力会社だけが得をすることはなくなります。送配電会社の中立的な立場を明確にすることで、送配電網を所有していない会社でも公平に利用できることになります。それは、健全な競争と電力産業の拡大や活性化につながることを目的とした改革です。
さらに、電力の安定供給に必要なコストの面でもメリットが得られるとされています。一般的に、電気を安定的に供給するためには、需要量と供給量を常に同程度の量にしてバランスを保つことが必要です。電力の需要量と供給量の差をインバランスと呼びますが、インバランスを調整するためにはコストがかかります。送配電部門の分社化によって、その調整に必要なコストの透明性が高くなると考えられています。
デメリットは電気代に関する懸念
デメリットとしては、これまで電力会社が実施していたすべての事業が別会社に分散することで、新たにさまざまなコストが生じ、電気代が値上がりするのではないかという懸念が残ります。また、送配電部門の会社はほとんどの場合、電力会社の子会社、またはグループ会社という存在になるので、完全に分離を行うのは容易ではなく、中立度合いが低くなる可能性も否定できません。
ライバル電力会社に対する不公平な取扱を避けるためにも、政府が規制する仕組み作りが必要です。ただし、送配電部門を完全な形で分離するのは現時点では難しいため、実現可能な方法としては現在進めている法的分離の取り組みが中立性を確保できるベストな方法といえます。
中立性を保つ発送電分離~4つの方法~
大手の電力会社が独占的に運用してきた電気を送電する送電網の管理や運営ですが、送配電部門を分離させることは、発電や小売部門の自由化においても鍵になると言えます。なぜなら、発電した電気は自分で使わない限り、電柱や電線などの送配電網を利用する必要があるためです。発電・小売・送電3つの改革が完了して健全な自由競争が行われるといえるでしょう。
現在の日本では、既に実施されていた「会計分離」に加え、2020年4月から「法的分離」も行われています。
会計分離
送配電部門の会計を他部門の会計から分離する方法です。送配電部門の会計を分離させることにより、料金支払いなどの条件において他の電力会社との間で公平性が保たれます。
法的分離
既に説明済みですが、送配電部門全体を別会社化する方法です。各事業部門の事業内容、会計、従業員などを明確に区別し、これまで一体となっていた電力会社とは、別会社として運営します。
所有権分離
法的分離のように別会社化したうえで、発電部門や小売部門の会社との資本関係も解消する方法です。英国や北欧で採用されている方法です。
系統運用機能の分離
送配電設備は電力会社に残したまま、送電線を運用したり指令を出したりする機能(系統運用機能)のみを別の組織に分離するものです。系統運用は、独立した系統運用者が行います。米国の一部の州で採用されています。
この記事のまとめ
日本では、日常生活を行っていくうえで欠かせない電気を安定かつ公平に供給するために、さまざまな取り組みが進められています。法的分離によって送配電部門の分社化が実現すると、電力産業の拡大や活性化というメリットも生まれます。私たちも電力自由化にともなう事業者の取り組みやサービスの質について知り、評価する意識を持ちましょう。
- 2020年4月から電力会社の法的分離による発送電分離が行われている
- 送配電部門が分離されることで一層中立性、公平性が確保される
- 発送電分離は、電力ビジネスが拡大するというメリットがあるが、電気代が高くなってしまうかもしれないという懸念がある
これまで、大手の電力会社で一貫して行っていた発電・送配電・小売の事業は2020年4月の発送電分離によってこれまでより中立性が保たれ、私たちの電気の利用に反映されます。毎日使っている生活に欠かせない電気ですから、どのような仕組みで改革が行われ、電気代が請求されているのか関心を持つこともよいことです。電気の小売部門は既に自由化されており、一般家庭でも自由に電力会社を選ぶことができます。今よりお得に電気を利用できる電力会社があるかもしれないので、探してみましょう。電力会社の比較を行うには、電気の比較インズウェブの一括比較サイトを利用してみると便利です。